婦人科希少難治性腫瘍に関する マクロファージとの関わりを解明して、有効な治療法に繋げる
マクロファージと子宮平滑筋肉腫
私たちは、平滑筋肉腫症例のなかで、破骨細胞に似た巨細胞(Osteoclast-like giant cell; OLGC)を多数伴う症例があることに気づきました(図1)。
子宮平滑筋肉腫は、子宮原発肉腫としては最多を占め、予後不良の疾患です。 術前画像診断、術後病理診断もその多彩性から良悪性の鑑別ですら困難がともないます。 また、上皮性の子宮癌に比べると発生頻度が低く、その詳細な発症機序解明や有効な治療法の確立が難しい背景があります。 現在、様々なターゲット因子の検索がなされていますが、平滑筋由来肉腫という一元的カテゴリーでの解析が中心であり、いまだ有効な治療法の確立に至っていません。 また、術前の血清で腫瘍を予測しうるバイオマーカーの探索が求められています。
現在では、平滑筋肉腫に稀に現れる現象として記載されていますが1、破骨細胞様巨細胞を伴わない平滑筋肉腫症例と伴う症例では、腫瘍発生機序が異なる可能性を考え、検討を進めています。
一般的に骨組織では、破骨細胞は、マクロファージ系前駆細胞からRANKL-RANKシグナルを介して破骨細胞になることが知られています2(図2)。破骨細胞は骨基質吸収し、骨のリモデリングに関わっています。破骨細胞は酒石酸抵抗性酸 ホスファターゼ(tartrate-resistant acidphosphatase,TRAP)染色やカテプシンKに陽性になります。
平滑筋肉腫と腫瘍随伴マクロファージ - 破骨細胞との類似性 –
子宮平滑筋肉腫にみられる破骨細胞様巨細胞は、腫瘍組織中に多数のマクロファージが浸潤しています。また破骨細胞様巨細胞は、骨の破骨細胞と同様に、破骨細胞 のマーカー酵素であ るTRAP染色陽性、カテプシンK陽性を示し、破骨細胞分化の転写因子であるNFATc1が核に陽性を示すことが分かりました。(図3)
平滑筋肉腫細胞と骨芽細胞マーカー
このことから、私たちは腫瘍組織内に浸潤してきたマクロファージが、骨組織のような機序で破骨細胞様の巨細胞に変化したのではないかとの仮説の元、腫瘍細胞から産生されるマクロファージへ働きかける因子を探索しました。通常骨組織では、骨芽細胞がRANKLを発現し、マクロファージ系前駆細胞がRANKを発現しています。このことから、平滑筋肉腫細胞でのRANKL発現を検討したところ、著明なRANKL発現が確認出来ました。またRANKLは腫瘍細胞が発現していることが明らかになりました(図4)。つまり、子宮平滑筋肉腫においても、骨組織と同じように、RANKL-RANKシグナルにより、破骨細胞様巨細胞が形成されている可能性が示唆されました(Human Pathol, 2015)*。
*Atlas of Gynecologic Surgical Pathology(Clement, Stall, Yang ed, 2020)の本文中に、破骨細胞様巨細胞を伴う平滑筋肉腫の想定される発生機序として参照されました。
また、平滑筋肉腫細胞自体が、骨芽細胞の転写因子であるRUNX2を発現していることを明らかにしました(Virchows Archiv 2021)。
今後の展開
平滑筋肉腫は、現在有効な治療法が模索されています。上記の骨代謝関連因子を抑制することで、腫瘍抑制が行えるかどうか、新しい治療法になりえるかどうかについて、培養細胞や動物モデルを使って、現在 検討を進めています。
(講師 寺崎 美佳)
関連原著論文
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- Uterine leiomyosarcoma with osteoclast-like giant cells associated with high expression of receptor activator of nuclear factor kappaB ligand. . Hum Pathol. 2015 Nov;46(11):1679-84.
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