マクロファージ 研究

<免疫動態病理> 病理像の背景にある細胞の動きを捉える

あらゆる疾患病態には細胞の動きが関与しています。細胞の動きは、炎症免疫応答の場を形成します。当研究室では、如何にしてその病理組織像に至ったか、病態の背景にある細胞の動きに着目した研究も行っています。マクロファージをはじめとする炎症・免疫応答に関わる細胞の動きや活性化のしくみについて細胞、組織、個体レベルで解析を行い、病態の解明、治療法につながる知見を得ることを目指しています。

細胞の動きを調節するケモカイン受容体会合分子FROUNT(フロント)

炎症・免疫応答において、マクロファージなどの白血球は炎症組織で産生されるケモカインという走化性物質に応答して炎症組織に集積し、生体防御に働きます。このとき、白血球の表面に発現するケモカイン受容体がケモカインシグナルを伝え、白血球の移動や活性化など種々の細胞応答を引き起こします。白血球の過剰な集積や活性化は、かえって病態の悪化や組織傷害の原因になることがあります。私たちはケモカイン受容体会合分子FROUNT(フロント)に着目した研究を行っています。FROUNTはマクロファージに発現するケモカイン受容体CCR2およびCCR5の細胞内領域に結合して細胞遊走シグナルを促進する細胞内制御分子です(1-3)(図1)。

FROUNTはマクロファージの遊走を促進し、欠損マウスや臨床検体の解析から、FROUNTがマクロファージのがん組織への集積および組織における性質決定に重要な役割を担っており、がん治療標的としての可能性を明らかにしました(Nat Commun 11: 609, 2020,文献(4),日本語総説

(5,6))。当研究室ではFROUNT阻害剤やFROUNT欠損マウスを用いて様々な炎症性疾患におけるFROUNTの関与を病理学的見地から解析し、マクロファージの性質・形態の制御機構についてさらに研究を進めています。

細胞遊走機能解析

炎症病態に関わる細胞を動物組織から単離し、細胞遊走活性に及ぼす治療薬投与や遺伝子欠損による影響を細胞レベルで解析します。フローサイトメトリーと組み合わせることにより、異なる細胞集団ごとの遊走活性を比較解析することができます(図2)。

また、炎症組織より細胞懸濁液を調製し、フローサイトメトリーにより浸潤細胞の数や特徴を解析します(図3)。

マクロファージの動きと形、機能に着目した診断・治療応用研究

 種々の刺激に対する細胞の応答は、突起形成、伸展、移動、細胞間相互作用といった形態的な変化として捉えることができます(図4)。

ケモカイン受容体会合分子FROUNTの欠損や阻害により細胞は特徴的な形態を示すことが分かっています(1, 2, 4)。また細胞の動きを調節する働きをもつFROUNTは、マクロファージの活性化も制御することを明らかにしています(図5)(4)。

 現在、その詳細な分子メカニズムを解析しています。このようなマクロファージの動き、活性化を制御する性質に着目して、FROUNT阻害剤の新型コロナウイルス感染症治療薬としての開発にも参画しています(AMED「新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業(新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する研究)」代表:東京理科大学:松島綱治先生)。

網羅的遺伝子発現解析

 細胞の動態や活性化の背景にある遺伝子発現情報を解析することにより、疾患に関わる細胞動態の分子メカニズムを明らかにすることを目指しています。共同研究先である東京理科大学生命医科学研究所炎症・免疫難病制御部門においては、シングルセルRNAseq解析による一細胞レベルでの網羅的遺伝子発現解析技術を用いて、疾患病態を構成する細胞群の個別の特徴を捉える解析に取り組んでいます。

私たちはこのように疾患の原因としてマクロファージの動き、形態や活性化状態に着目し、病態の新しい診断・予測法や治療薬の開発につなげることを目指しています。マクロファージだけでなく、生体内では様々免疫細胞や、組織構成細胞が相互に影響を及ぼしあっていることから、それらの相互作用についても今後明らかにしていきたいと考えています。

一緒に研究を発展してくださる仲間を歓迎します!

(助教 遠田悦子)

関連原著論文

  1. Terashima Y, Onai N, Murai M, Enomoto M, Poonpiriya V, Hamada T, Motomura K, Suwa M, Ezaki T, Haga T, Kanegasaki S, Matsushima K. 2005. Pivotal function for cytoplasmic protein FROUNT in CCR2-mediated monocyte chemotaxis. Nature immunology 6: 827-35
  2. Toda E, Terashima Y, Sato T, Hirose K, Kanegasaki S, Matsushima K. 2009. FROUNT is a common regulator of CCR2 and CCR5 signaling to control directional migration. J Immunol 183: 6387-94 (Selected as a cover picture of the journal)
  3. Toda E, Terashima Y, Esaki K, Yoshinaga S, Sugihara M, Kofuku Y, Shimada I, Suwa M, Kanegasaki S, Terasawa H, Matsushima K. 2014. Identification of a binding element for the cytoplasmic regulator FROUNT in the membrane-proximal C-terminal region of chemokine receptors CCR2 and CCR5. Biochem J 457: 313-22
  4. Terashima Y*, Toda E*, Itakura M, Otsuji M, Yoshinaga S, Okumura K, Shand FHW, Komohara Y, Takeda M, Kokubo K, Chen MC, Yokoi S, Rokutan H, Kofuku Y, Ohnishi K, Ohira M, Iizasa T, Nakano H, Okabe T, Kojima H, Shimizu A, Kanegasaki S, Zhang MR, Shimada I, Nagase H, Terasawa H, Matsushima K. 2020. Targeting FROUNT with disulfiram suppresses macrophage accumulation and its tumor-promoting properties. Nat Commun 11: 609 (*equal contribution)

関連日本語総説

  1. 遠田悦子、寺島裕也 「アルコール依存症治療薬ジスルフィラムによるがん抑制効果の分子標的」糖尿病・内分泌代謝科、科学評論社 52(1): 37-44, 2021
  2. 遠田悦子、寺島裕也 「マクロファージの動きを制御するFROUNTによるがん免疫応答の修飾作用」Medical Science Digest Vol 47(3), 2021
  3. 遠田悦子,寺島裕也,松島綱治 「がん免疫応答にかかわるサイトカイン・ケモカインの応用研究」実験医学増刊 Vol.37 No.15 がん免疫療法の個別化を支える新・腫瘍免疫学、86-91,  2019年09月13日発行
  4. 寺島裕也、遠田悦子 「マクロファージ制御による新たながん治療薬の開発」細胞:特集:複合がん免疫療法の時代来る Vol 48 (13):624-628, 2016年12月20日発行
  5. 遠田悦子、寺島裕也、松島綱治 「ケモカインシグナル」生体の科学:特集:細胞シグナル操作法 Vol 66 (5):412-413, 2015 2015年10月15日発行
  6. 遠田悦子、寺島裕也、「ケモカイン受容体CCR2, CCR5とシグナル促進分子フロント」、臨床免疫・アレルギー科、2013年59巻386-391
  7. 遠田悦子、寺島裕也、松島綱治、炎症・免疫疾患の分子標的薬:「サイトカイン・ケモカインを中心として」、日本臨牀・増刊号・分子標的薬、2012年70巻365-271
  8. 遠田悦子, 寺島裕也, 松島綱治, -Overview-免疫シグナルとその受容体―「サイトカイン・ケモカイン受容体とTLRによる免疫制御」, Diabetes Frontier, メディカルレビュー社, 19(1) : 101-107, 2008
  9. 遠田悦子、寺島裕也、「単球・マクロファージ遊走制御タンパク質フロント」生化学,日本生化学会,79(10) : 972-975, 2007
日本医科大学 解析人体病理学